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6/28にビルボードライブ東京、6/30にビルボードライブ大阪で行われた「Nao Yoshioka Live 2016 -Possibility-」。同月、アメリカのワシントンDC郊外で行われたソウル・ジャズフェス「Capital Jazz Fest 2016」の凱旋公演として行われた本公演をライターの林剛氏がレポート。大きくスケールアップしたNao Yoshiokaの公演の模様を写真とともに振り返る。

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Nao Yoshiokaが[ビルボードライブ東京]のステージに立つのは、2015年8月にネイザン・イーストの来日公演にゲスト出演して以来となる。だが、単独でのライヴは今回が初めて。6月28日(火)、そのステージに現れたNaoは実に堂々としていた。表情が余裕。それは、同月上旬、米ワシントンDC郊外で行われた〈Capital Jazz Fest 2016〉に日本のシンガーとして初出演して実力派シンガーたちと渡り合い、交流を図るなどして付けた自信の表れなのだろうか。

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だが、そうした先入観を抜きにしても、〈Live 2016 -Possibility-〉と銘打たれた今回のライヴは、〈The Beginning of a New Chapter〉と題して行った今年初のバンド・セットでのライヴの時以上に逞しく、さらにスケールが大きくなっていた。短いながらも濃密だった数々の体験を経て、この先起こるであろうビッグな出来事を予感させるNaoの今と未来を伝えるようなステージ。R&Bらしさや本物っぽさを強調しなくても自然に滲み出るグルーヴ感。数ヶ月単位で成長を遂げている勢いに溢れたシンガーを見るのは、本当に気持ちが良いものだ。

 

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ベースの松田博之をバンマスとするバンドとの相性はやはり格別で、今回はドラムスがFUYU、ギターが田中“Tak”拓也、キーボードが小林岳五郎とバック・ヴォーカルも兼ねるJamba、そしてNaoのライヴには初参加となる鎌田みずきというラインナップ。Naoを含めた7人体制でのライヴは、通常、終盤でやることが多いゴーゴー・ナンバー「Forget about It」からスタート。ジル・スコットの「It’s Love」を挿み込むのもお約束で、行ってきたばかりの米東海岸(DC~フィラデルフィア)の空気を運び込むかのように、幕開けから“凱旋公演感”を漂わせる。続いて歌ったのがアニタ・ベイカーの「Sweet Love」というのもマチュアな観客が多い〈Capital Jazz Fest 2016〉の雰囲気を伝えるかのようで、こういう深い色気も表現できるようになったNaoに少し驚く。

3月のライヴではやはり2曲目でアニタの「Do You Believe Me」を歌っていたが、この路線が今の彼女の気分でもあるのだろう。また、オリジナルの「The Light」に続いて歌ったのがボビー・コールドウェルの「Open Your Eyes」。この曲はコモンが『Like Water For Chocolate』に収録した(Naoとは同名異曲の)「The Light」でサンプリングしていた曲であり、Naoの「The Light」からボビーの曲に繋げたのは、ソウルクエリアンズに影響を受けているバンド・メンバーやスタッフのハイセンスなシャレだったのかもしれない。その次に歌ったネオ・ソウル調のオリジナル「Awake」も含めて、ここらへんの流れはNaoを含めたメンバーたちの音楽趣向を明らかにするようで、もちろんそんなことを考えなくても普通に楽しいのだが、今のNaoが目指している方向性をさりげなく伝えていたように思う。

 

MD/Bass: Hiroyuki Matsuda
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Drums: FUYU
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実際に今回はセットリストが技アリで、オリジナル曲の前後に、それに関連する、もしくは同じ雰囲気を持つカヴァー曲を披露することでオリジナル曲のバックグラウンドを浮き彫りにするような形が取られていた。ルーファス&チャカ・カーンを思わせるスロウ・ファンク「I’m Not Perfect」の次にチャカの名唱で知られるジャズ・スタンダード「Night In Tunisia」を歌ったのもそんな一例。Naoのチャカ好きはファンの多くが知るところだろう。思えば、フュージョン・ファンクなチャカ・ヴァージョンでのハスキーな声による歌い出し、力の込め方はNaoそっくりで、ここに自身の姿を重ね合わせたくなる気持ちもよくわかる。チャカ版に倣ったJambaのキーボード、鎌田みずきによるスキャットのコーラスも、めくるめくようなグルーヴに加担していた。

また、出世曲「Make the Change」の前後に歌ったのは、3月のライヴでも披露したマックスウェルの「Fortunate」とディアンジェロの「Higher」。「Fortunate」ではJambaがマックスウェルに似せた男声を挿み、「Higher」ではJambaがオルガンの音でチャーチなムードを醸成。今回はキーボードがJambaと小林岳五郎のダブル編成ということもあって、過去最高にメロウネスを発していたように思う。

 

Guitar: Tak Tanaka
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Keyboards: Takegorou Kobayashi
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ライヴでは毎回、ビッグ・ニュースをサプライズ的に告知するのもお約束。今回は、秋にニュー・アルバムを出すというファン待望のニュースだった(新作のタイトルは『The Truth』)。そして、それに伴った全国ツアーも行うという。こうして会場のテンションを上げた後、ライヴの最後で披露したのが2曲の新曲。ひとつは「Make the Change」や「Awake」を書いた松田博之の作だという「Borderless」。ジャジーにスウィングする軽やかで開放感のあるミディアムで、これは肩の力が抜けた今のNaoにピッタリな曲と言っていい。もう一曲、アンコールで披露したのは、マーシャ・アンブロウジアスあたりとも勝負できそうなバラードの「I Love When」。これまでは、どちらかといえばオールドスクールなマナーを強調してきたNaoだったが、彼女なりのセンスで現行R&Bの王道に近づけてきたこの曲で、また何かが変わりそうな気もした。

 

Keyboards/Oragn/Chorus: Jamba
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Chorus: Mizuki Kamata
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耳の肥えたR&Bリスナーがどう反応するか気になるところだが、日本人が(ネイティヴにとっては拙く聞こえる)英語で歌うR&Bというものに懐疑的なリスナーも、これには降参するのではないか。とにかく、自分のオリジナル曲で世界と向き合うという姿勢が一段と強まったように思える。カヴァー尽くしだった3月のライヴや今回のライヴで上記のようなカヴァーを披露したことの答えが、ニュー・アルバムではオリジナル曲の形でハッキリと出されるに違いない。

林 剛

Photo by Tetsuya Nakagawa

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