LAを拠点に、シンガー/プロデューサーとしてTVショー、歌手、作曲家など多方面で活躍する Mars Today(マーズ・トゥデイ)。1stアルバム『Bits & Pieces』の日本盤を6月13日にリリースした彼に、目指す音楽観や『Bits & Pieces』の制作秘話、SoulectionやRos Lakas をはじめとした様々なアーティストとの繋がりを語ってもらった。
Mars Today Interview
-なぜ Mars Today という名前を付けたのでしょうか?差し支えなければ本名を教えていただけますか?
僕の本名である Mark は、もともとギリシャ語の“Mars”から派生したものなんだ。この Mars Today という名前は、「今この瞬間に集中する」っていう意味を込めて付けたものさ。Ram Dass(※)が言っていた「Be Here Now」と同じ意味だね。過去にも未来にも囚われずに今この瞬間を生きるための、自分自身への戒めのようなものさ。
(※)Ram Dass:精神世界研究者、指導者。1971年に出版された精神世界ガイドブック「Be Here Now」は世界的名著。
-あなたはサンフランシスコ生まれで今はLA在住ということですが、なぜアーティストとしてLAで活動することになったのか教えてもらえますか?
アーティストにとって、サンフランシスコは素晴らしい場所だったよ。成長と創作に必要なものが全て揃っていたからね。でも商業という点では少し遅れていた。それに比べてLAの人々は皆オープンでとても意欲的に活動している。だから僕はアーティストとして、プロデューサーとして、そしてシンガーソングライターとしてキャリアを積むためにLAに来たんだ。ちょっと後悔したこともあったけどね。
-小さい頃よく聴いた音楽、あなたの家族、またアーティストとしてのゴールについて教えてください。
僕の父は作家で、母親は画家だったから、すごくアーティスティックな環境で育ったよ。家のリビングにレコードプレイヤーがあって、そこでよく父が持っていたBeatles、Bob Marley、Bob Dylan、Rolling Stones、Jimi Hendrixなんかのレコードを聴いていたんだ。それが音楽にのめり込んでいくきっかけだったね。それからR&B、オルタナティヴ・ロック、ブルーグラス、レゲエなど色んなジャンルの音楽を経験して、最終的にはソウル、そしてネオ・ソウルにたどり着いた。今の僕の音楽はこれまでの経験の積み重ねで出来ているんだろうね。
-ご自身の音楽はどのようなスタイルだと言えますか?
僕自身では自分の音楽を「ポップソウル」だと思っているよ。僕の音楽にはD’Angelo、Michael Jackson、Justin Timberlake、Nirvana、Bob MarleyやIron & Wine、Jack Johnsonといったアーティスト達からの影響があると思う。常に制作過程を大事にしながら、ただひたすら良い曲を書き続けることさ。それが僕の強みだからね。
-初リリースである2015年の『Awake』は全曲インストゥルメンタルで構成されていましたが、2015年のシングル“End of Days”はシンガーとしてリリースしています。元々はビートメイカーとしてデビューされたのですか?なぜシンガーとして活動を始めたのでしょうか?
僕のキャリアはビートメイカー/ラッパーとして始まったんだ。結局ラップはだんだんやらなくなって楽曲制作と歌に集中することにしたんだけどね。その後 SoundCloud でビートやリミックスを発表してファンを集めていたんだけど、そこに自分の歌も付けてみたらみんなの反応が良かったんだ。だから2017年からは自分の曲も他のアーティストのために書く曲も、インストより歌のある曲を作るようにしている。曲を書いたり歌ったりするのは本当に楽しいんだ。
-今現在、特別なリスペクトを持っているアーティストは誰ですか?
ここ数年でお気に入りなのはSolangeの『A Seat at the Table』とThe Internetの『Ego Death』の二つのアルバムだね。楽曲制作に限って言えば J Dilla、Mark Ronson、Robin Hannibal、Salaam Remi が好きだし、もっと最近の人だと Esta、IAMNOBODI、Krs、Steve Lacy も好きだね。……ちょっと多すぎるかな(笑)それだけたくさんの才能溢れたアーティスト達に囲まれて本当に僕は幸せ者だよ。
-Big Brooklyn Redや Soulection、Film Noir、Feteといった様々なアーティストと一緒に活動されているようですが、どのように彼らとは繋がったのですか?
Big Brooklyn Redとは共通の知人を通して繋がっんだけど、一緒に曲を書いてみたら1日でとんでもなく素晴らしいものが出来たんだ。結局それを形にするのには4年もかかっちゃったんだけどね(笑) Soulectionには、Estaと一緒に“Summatime Fine”を作ってからずっとサポートしてもらっているよ。彼らのコンピレーション『Unite』と『Promise Once More』の両方にも参加させてもらったんだ。 Film Noirの創設者Krsとはインターネットを通じて知り合って、それからずっと一緒に活動している。今まで二人でたくさんの曲を作ってきたし、これからもまだたくさん作っていくよ。
-Jahkoyのプロデュースもしているようですが、プロデューサーなど裏方としての活動をするうえでなにか大きなターニングポイントになった出来事はありましたか?
Jahkoyのプロデュースには少ししか関わっていないんだけど、彼は僕にとって、親友Los Rakas以外で初めてプロデュースさせてもらったメジャーアーティストなんだ。ターニングポイントとしては、去年とてつもない才能を持つKyle Dionっていうアーティストの1stデビューアルバムをプロデュースしたんだけど、そこから周りの人が僕のことをプロデューサーとして見始めるようになったんじゃないかな。いろんなジャンルで仕事をするのはとても楽しいし、そこに自分が何をもたらせるかを考えるとワクワクする。そういった経験が今のプロデューサーとしての僕を作り上げているんだ。
-今回『Bits & Pieces』に参加したアーティストについて教えて下さい。どのような繋がりで、どんなところに共感して一緒に制作することを決めたのですか?また、あなた自身が使う楽器、機材についても教えてください。
この『Bits & Pieces』を実現させるために、自分のコネクションを最大限に活用したよ。このプロジェクトには僕の友達しか参加していないんだ。今回の作曲ではまず Abelton でプログラミングをして、それを ProTools でミックスしていったんだけど、僕のラフなアイデアをどうやって形にしていくか、毎回彼らと相談しながら進めた。3人のギタープレイヤーと2人のベースプレイヤー、キーボーディスト1人とバックグラウンドシンガーが2人、フルセクションのホーン隊とバイオリン1人。その全てのメンバーがそれぞれの個性を発揮して、このアルバムは生まれたんだ。
-『Bits & Pieces』の全ての曲を4ヶ月で終わらそうとしたようですが、なぜそうしたのですか?
僕にとってはあんまりないことなんだけど、『Bits & Pieces』は6ヶ月で完成させられたね。普段はもっと時間がかかるし、曲がリリースされる頃にはいつも燃え尽きてしまっていたから、今回はちょっとやり方を変えてみたんだ。それが多分うまく行ったんだと思う。
-本作の楽曲は全て一人でプロデュースしたのですか?
“Stuck”という曲は元々Chris Keysが作曲していて、今回も彼と一緒にプロデュースした。その曲以外は全部僕がプロデュースしたよ。
-“Cool it”をリミックスしたIon the Prizeについて教えて下さい。
彼と会ったのは数年前かな。彼は当時地元のラジオ局でDJをやっていたんだ。彼は素晴らしいプロデューサーで、僕と同じように完璧主義者なんだ(笑)“Cool It”のステムデータを彼に送ってみて、彼がそこから何を思いつくか聞いたんだ。彼は本当に良い仕事をしてくれたよ。なんせただのベッドルームを豪華なダンスフロアに変えてみせたんだからね。
-本作ではドラムレスでアコースティックな曲が多く、またホーンがよく使われていますが、特にどんなサウンドを意識したのですか?
僕にとっては全てのサウンドが重要だよ。僕は音楽がシンプルになればなるほどそれぞれの楽器のトーンがクリアになっていくと思うし、そういったシンプルな音こそ活かすべきだと常に考えている。だからシンプルなアコースティックな曲を多めにしたんだ。こういう曲は音楽と歌詞を際立たせるし、それでいてグルーヴ感を保てるからね。ホーンを使ったのも同じような理由なんだ。ホーンの音は僕の一番のお気に入りで、ホーン隊のメンバーである友達がいたのは本当にラッキーだったよ。今回はその友達を通してそのホーン隊に参加してもらうことができたんだ。ホーンを自分の音楽に取り入れるのは僕の夢の一つだったからね。
-『Bits & Pieces』はシンガーとして集大成的な作品だと言えますが、なぜこの作品を「全てが地続きの音楽による短編集」と表現したのでしょうか?
このプロジェクトを『Bits & Pieces』(がらくた・寄せ集めの意)と名付けたのはおとぎ話のような始まりから先が見えない終わりまで続くある特定の関係について伝えている物語だからなんだ。長く複雑な関係だから、その物語というのは何年も続く。時間軸を行ったり来たりするんだ。僕にとって常に考えさせられるテーマだよ。