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Nao Yoshiokaの最新作『The Truth』のリリースに合わせ開催された日本ツアー<The Truth Japan Tour 2016>が、11/24(木)に赤坂BLITZにて行われた赤坂BLITZ公演をもって終了した。大きくスケールアップした歌声とパフォーマンスを見せたNao Yoshiokaのツアーファイナルの模様をライターの林 剛氏のライブ・レポートと写真で振り返る。

新作『The Truth』を引っ提げての全国ツアー〈The Truth Japan Tour 2016〉は、名古屋、福岡、大阪、札幌を回り、11月24日(木)、東京の[赤坂BLITZ]で最終日を迎えた。Nao Yoshiokaがこの名門ライヴ・ハウスの舞台に立つのは今回が初めてとなる。が、その前日にも初めての大舞台を経験。大阪の[フェスティバルホール]で行われたFM COCOLO主催の〈CROSSOVER JAM “COOL VIBES”〉に出演したNaoは、トップバッターとして「Make the Change」「At Last」「I Love When」の3曲を披露し、初っ端から会場を自分のものにした。ショウの後半では、初顔合わせとなる久保田利伸と「SUKIYAKI~Ue wo muite arukou」(久保田のコラボ・ベスト『THE BADDEST~ Collaboration~』に新曲として収録されたミュージック・ソウルチャイルドとの共演による名曲カヴァー)をデュエット。日本のR&Bキングと堂々と渡り合う姿に観客も黙って見入るばかりだったが、Naoが普段通り実力を発揮できたのは、このステージのバック・バンドが自身のツアー・メンバーを中心に編成されていたからでもあるのだろう。Naoと大阪に乗り込んだのは、バンマスを務めるベースの松田博之、ギターの田中“Tak”拓也、キーボードのJamba、バック・ヴォーカルの鎌田みずき。出演者からも絶賛されていたこのメンバーが翌日東京に戻り、ドラムスのFUYU、キーボードの小林岳五郎、バック・ヴォーカルの吉岡悠歩と合流して、[赤坂BLITZ]でのツアー・ファイナルは幕を開けた。

 

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新作『The Truth』のイントロ「Journey (Intro)」がバック・スクリーンの映像とともに流され、黄色のドレスに身を包んで登場したNaoがまず歌ったのは、アルバムの曲順通り松田博之が制作した「Borderless」。メロウなミッド・グルーヴで快調に滑り出し、続くUKソウル・マナーのミディアム・ダンサー「Beautiful Imperfections」では抑制をきかせながらクールに歌うNaoにコーラスの鎌田みずきと吉岡悠歩が力強くレスポンスして三つ巴のヴォーカル・パフォーマンスを披露する。続いて「次の曲で音楽の旅に…」と言って始めたのは、ミニ・ライヴなどでも度々歌っていたジル・スコットの「A Long Walk」。新作がネオ・ソウル的なものをベースに制作されたことを裏付けるようなカヴァーで、Naoがタメをきかせながらジルっぽくアンニュイな雰囲気で歌えば、バンドもジルの初期ライヴ盤『Experience : Jill Scott 826+』に通じるジャジーなプレイで主役を盛り立てる。さらに、そのジルを手掛けたことでも知られるカーリ・マティーンが制作した「The Truth」、キャロリン・マラカイが関与した「Freedom & Sound」という、新作の曲でもとりわけメッセージ性の高い2曲を続けて歌ったNaoは、アルバムと同じように肩の力を抜きつつ逞しい歌を聴かせていく。前者ではFUYUがパッドを叩いてエッジを加え、後者ではJambaが流麗なピアノ・ソロを披露して客席を沸かせた。

 

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この時点で新作から前半の4曲を歌ったわけだが、先のジル・スコット曲よろしく新作の背景にあるものをさらに伝えようというのか、カヴァーが2曲続いた。ひとつはカナダの女性シンガー、イヴァナ・サンティーリの99年作『Brown』から「Sun+Moon=Tomorrow」。ドラムンベース調の高速ビートで疾走するフューチャリスティックなソウル・ナンバーで、このビートをFUYUが叩きまくり、Naoは力強いフェイクでグイグイと引っ張っていく。イヴァナといえば、Naoが「Make the Change」のリミックスを依頼したジェイムズ・ポイザーともコラボしていただけに、この選曲には納得がいった。そして、もうひとつはシャーデーの「Kiss Of Life」。パワー・ヴォイスでねじ伏せるような唱法から力まず色気を漂わせるような歌い方にシフトしてきたNaoにとって、この曲の穏やかなムードは今の気分にピッタリだったのだろう。続くオリジナルの「Set Me Free」も小林岳五郎のピアノをバックにしっとりと歌い上げ、これまで以上にスケールの大きさを見せつけた。

 

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バック・スクリーンにて〈Capital Jazz Fest.2016〉出演時のインタヴュー映像を流す間にアクティヴな衣装に着替えたNaoは、後半のスターターとして、前作『Rising』からアーバンなミディアム・スロウ「Awake」を披露。もはや軽く懐かしさを覚えるこの曲でも、ヴォーカルに色気が備わったせいか、前作のツアーで披露した時より余裕が感じられた。続いても前作からの曲で、今やライヴのレパートリーとして定着したゴーゴー・ソング「Forget about It」で会場のヴォルテージは一気に上昇。パーカッシヴなビートに乗ってソウルフルな歌を聴かせ、総立ちになった観客にもサビを歌うよう煽り、バンド・メンバーがアドリブ的にソロを披露していく場面では合いの手を入れるように声を掛けるNaoはファンキー・シスターそのもの。全身で音楽を楽しんでいるような感じには観ているこちらも楽しくなったし、ここまでステージで弾けた彼女を観るのも初めてだったかもしれない。このテンションをキープしたまま、マックスウェルの「Sumthin’ Sumthin’」を歌いながらバンド・メンバーを紹介し、新作のタワーレコード限定盤に収録されたメロウ・ファンクなネオ・ソウル「Fireking」へと繋いだ展開もスムーズで、Naoだけでなく、〈Nao Yoshiokaバンド〉のスキルとセンスの高さも改めて見せつけたように思う。

 

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「今、私がこうして音楽ができているのもたくさんの尊敬するアーティストたちがいたからで、その歴史に敬意を払いながら、2016年の今の私たちがその音楽をお届けしたい」と言って歌ったのは、今年6月の[ビルボードライブ東京]公演でも好評を博したチャカ・カーン・ヴァージョンの「Night In Tunisia」。今回もチャカ版に倣ってJambaがシンセをブニョブニョ鳴らし、鎌田みずきの力強いスキャットをフィーチャーして、めくるめくようなグルーヴを生んでいく。前回以上のパワーでたたみかけたこれは圧巻というほかない。お馴染みの出世曲「Make the Change」では客席に合唱を促してファンと一体になるNao。ツアー・ファイナルを迎えた思いと今後の抱負を語った後、新作の中でもとりわけセクシーな「I Love When」を艶やかに歌い上げてライヴ本編は終了した。

 

 

アンコールでは、惜しくも新作に収録できなかった未発表曲「Possibilities」を披露。「Beautiful Imperfections」と同じくオスキーズことオスカー・スタイラーが手掛けた傑作スロウで、これはファンにとって嬉しいプレゼントとなったはず。ラストは、本人も新作の中でとりわけ思い入れがあるという松田博之プロデュースの「Spark」を。この2曲の流れは、可能性を探りながら閃光のように輝く…というストーリーになっていたのだろうか。新作のアウトロをBGMにして出演者が横一列になった最後の挨拶まで、トータルで2時間におよんだ音楽の旅。一年半前、前作のツアー時に感じた表情の硬さや遠慮は一切なく、久々にNaoのライヴを観た人がその変化に驚いていたほど、今回の彼女は自由で自信に溢れ、カッコよかった。

 

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いろいろな意味で規格外であり、周囲から無駄に“本物”扱いされるがゆえに彼女の存在を斜めに見る人もいるかもしれないが、圧倒的なクオリティで叩きつけてきた今回の新作とライヴに接すれば誰も文句は言えまい。今のNao Yoshiokaは、もう青臭く夢を語る必要もないし、作品のコンセプトや舞台裏を明かしたりしなくても、歌と音楽そのもので人々を魅了し、熱狂させる力を持っている…と、そんなことを感じたツアー・ファイナル。デビューしてまだ3年。ひたすら前だけを見つめてスパークしてほしい。(林 剛)

 

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