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プリンス〜ディアンジェロの系譜を継ぐとも言われるファンクネスとラファエル・サディークが後期に追求してきたようなレトロ感を加味したサウンドで懐かしくも新しい世界を生み出すクリーブランド出身のアーティストAaron Abernathy(アーロン・アバナシー)。彼が4月27日(木)、ついに代官山LOOPで初の単独来日公演を行う。

いよいよ残りわずかとなったこの注目の公演をバックアップするのは、ドラムのJay Stixx、ベースのZak Croxall、そしてギター兼ミュージックディレクターを務めるTak Tanakaのスペシャルバンド。今回本公演のキーマンでもあるミュージックディレクターのTak Tanakaに、SWEET SOUL RECORDSのエグゼクティブプロデューサー山内直己がインタビューを行った。

スティーヴィー・ワンダーやエイドリアナ・エヴァンス、ザ・ルーツのメンバーらともステージをシェアし、日本に戻ってからもJUJUやSKY-HIといったトップアーティストたちをサポート、近年ではTAKE6のメンバーでありブライアン・マクナイトの兄でもあるシンガー、クロード・マクナイトの単独来日公演でもサポートを務めるなど、日本と海外のトップシーンの架け橋とも言えるTak Tanakaのキャリアと、そこから導かれたプレイヤーとして、そしてミュージック・ディレクターとしての哲学を聞いた。

 

ボストンにいた頃はネオソウルが流行りだしてシーンが盛り上がってたね

-Takさんがミュージックディレクター(MD)を務めるAaron Abernathyの公演、とっても楽しみにしております!

楽しみだね!

-ライブも今月末にいよいよ近づいてきたということで、MDのTakさんにいろいろお話を伺いたいなと思います。まずTakさんと言えばバークリー音大を卒業されて海外で卒業後も海外で活動を長くされてましたよね?

そうだね。

-海外で活動されてた若い頃のTakさんの写真拝見したんですけど、この頃かなり尖ってますよね?笑

あぁこの写真ね(笑) このバンドはRage Against The Machineみたいなのやってたからね(笑)

 

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※中央下がTak Tanaka

 

-なるほど(笑) そもそもどんなきっかけでバークリー音大に行かれたんですか?

高校生くらいの時に「音楽勉強したい」って親に言ったら、母親の友達の息子さんが当時バークリーに行ってて、そこで音楽理論を教えてもらってた先生に習う機会をもらったのが興味を持ったきっかけだね。それで大学卒業するタイミングでTOEFLの合格ラインを超えたらバークリー行っていいって親にも言ってもらえたから必死に勉強してギリギリ合格(笑) それで奨学金もなんとかもらえたからね。

-当時バークリーにいたのってどの世代なんですか?

日本人だったら一番有名なのは上原ひろみちゃん、あとは中村亮とか後藤克臣とか、同じギタリストだとDai Miyazakiも同期だね。Daiちゃんは同世代でスタイルも近くて話が合う日本人は彼しかいなかったからよく遊んだなー。他に一緒によくギグやってたのはThe Rootsの今のベーシストのMark Kelleyとかかな。彼は凄いナイスガイだしベースも当時からめちゃくちゃ上手かったよ。

-結局ボストンには何年くらいいたんですか?

学校3年で卒業して労働ビザとるためのトレーニングで1年、それからミュージシャン活動を始めて2年いたから合計で6年いたね。ミュージシャン活動って言っても当時はお金もないからウェディングとかカバーバンドとかで収入を得ながら、自分のやりたいバンドも並行してやるみたいな感じで。メンバー全員アメリカ国籍持ってるんだけど人種はめちゃくちゃなアフリカンポップバンドみたいなのとかやってたんだけどそれは面白かったね(笑)

-メンバーはみんなバークリー出身の方ですか?

そうそう、ほとんどみんなバークリーだね。一人だけコンピューターエンジニアやりながらトランペット吹いてるっていうインド人はいたけど。やっぱり学校行ってるとそこを中心にネットワークは広がっていくんだけど、バークリーに面白い学生いるらしいぞっていう噂が広まったりすると学外からも青田買いしに来るやつもいたりするからね。それにボストンはウェディングとかパーティがいっぱいあるんだよ。だからニューヨークに住んでるミュージシャンがわざわざ週末だけボストンに来てパーティで金稼いで、ニューヨーク戻ってまた儲からないキツいギグをやるみたいなことをしてるやつもいた(笑)

-なるほどなー。さっきの写真の時はレイジみたいなバンドやってたって仰ってましたけどこの頃はどういう音楽が一番やりたかったんですか?

それこそ最初はコンテンポラリージャズばっかりやってたんだけど、ウォーリーズ・カフェ(※ボストンの老舗ジャズ・クラブ)っていうミュージックチャージなしで毎日ライブやってるところに2001年くらいから出入りするようになって、当時流行ってたヒップホップとかR&Bのネタを使ったインストファンクとかにも興味が出てきてって感じかな。2001年っていうとちょうどD’Angeloの『Voodoo』がリリースされた直後でもあるし、この頃からJill ScottとかゴスペルだとKim Burrellとか面白いアーティストが出て来てネオソウルが一気に注目されてシーン自体が盛り上がっていった時期だったね。

 

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※Paul McCartneyのレコーディングエンジニアと

 

「お客さんもミュージシャンもみんながStevie Wonderに釘付けになっちゃうんだ」

-一番いい時代に向こうにいらっしゃったってことですね。それでボストンのあとはLAに行ったんでしたっけ?

そうだね。LAには5年ちょっといたかな。

-うわ、結構長くいたんですね(笑) でも今でこそLAの音楽シーンって盛り上がってますけど当時はやっぱりまだNYの方が活気あったんじゃないですか?なんでLAに?

そうだね、当時のNYっていうとRobert Glasperとかが爆発的に売れる直前の頃だと思うからNYのジャズシーンはかなり活気があったよ。でも当時の俺はもうジャズからは少し気持ちが離れちゃってたし、住環境もLAは抜群なんだよね(笑) 俺もその頃ちょいちょいNY行ってたりもして、ほら、SSRからParis Toonってリリースしてるじゃん?あれのMothers Favorite Childってバンドでもギター弾いてたりしてたんだよ。でもその時にNY行った奴らとか見てると凄く大変そうだし、全国的に活躍してるアーティストのオーディションとかはLAでやってることが多かったりもしたしね。

-オーディションってどんなの受けたんですか?

一番覚えてるのはLauryn Hillのオーディションだね。落ちたけど(笑) あとは謎のインド人のショーケースバンドとか変なオーディションも面白そうだから受けてみたりね(笑)

-Stevie Wonderとも一緒に演奏したことあるって聞いたんですけどそれもオーディション?

いや、Stevie Wonderは俺らが当時演奏してた店に来て一緒にセッションしたら気に入ってくれたみたいで、その後何回か来てくれるようになったんだよね。それがきっかけになって、アメリカって映画のアワードとかが結構頻繁にやってるんだけどそれのハウスバンドみたいのに指名してくれたりして、5~6回は一緒に演奏したんじゃないかなあ。

-凄いなー(笑) Stevieと一緒にやるってどんな感じなんですか?

彼のやり方はある種有名になってて、まずは”Giant Steps”っていうジャズの難しい曲をめちゃくちゃな速さでやってミュージシャンをビビらせるのね(笑) それから名曲シリーズをやって最後に”Ribbon In The Sky”を2回転調してお客さん大盛り上がりみたいな形が出来てるんだよね。結局ミュージシャンもお客さんも彼に釘付けになっちゃうんだからやっぱ超一流のアーティストはほんとに凄いなと思ったよ。

 

Stevie Wonder – Ribbon In The Sky

 

-濃い経験されてますねー。それから日本に帰ってきたのはいつでしたっけ?僕が初めてTakさん見たのはAdriana Evansの来日公演でギター弾いてるとこだったのは覚えてるんですけど。

それは2009年とかかな?エイサー・ワトキンスっていうドラマーとバーレスクのバックバンドをやってたんだけど、彼がAdriana Evansのミュージック・ディレクターをやってた縁で誘ってもらったんだよね。
ちょうどそれくらいのタイミングでリーマンショックがあってアメリカのエンタメ業界が怪しくなってきたのと、ビザの更新のタイミングが重なってどうしようか悩んでいたところに、東京の友人からJUJUのギタリスト探しているという話をもらって、ちょっと帰ってみるかっていうくらいの感覚で日本に戻ってきたらそのまま居ついちゃったって感じだね。

-帰ってきた時に日本とアメリカの音楽の違いみたいなのは感じましたか?

それはもちろん、特にPOPSは全くマナーが違うしね。海外から戻ってきて初めて感じたんだけど、日本のPOPSってもともと日本になかったものを自分たちなりに作り変えてJ-POPとして発展させてきたものだから、世界中どこを探してもない独自のものに進化してるんだよ。MISIAの”Everything”みたいなバラードとかには顕著で、音の重ね方とかフレーズの繋がりとかが綿密に計算されて作られてるからね。当時弾いてたJUJUの“空”とかはパッと聞いてるといるのかいないのかわかんないくらいだけど、いなくなると寂しいっていうギターで、そういうアプローチをそれまでやったことがなかったから、凄い大変だったけど勉強になったし楽しかったよ。

-なるほど、日本人の緻密さみたいなものがちゃんと音楽にも反映されてるんですね。それからTakさんとちゃんとお会いして話したのは下北沢のmusic bar rpmですよね?確かSOUL OVER THE RACEの収録が終わった頃で、かおりちゃん(澤田かおり)とか中村亮さんがライブやるっていうから見に行ったらTakさんもいてっていう記憶があります。いろんな人と英語で喋ってるしなんかオーラも違うしで最初の印象は「尖ってるなーこの人!」って感じでした(笑)

あれ、そう?結構ナイスガイな感じだったと思うんだけどなあ(笑) かおりとかは歳は離れてるけど日本に帰ってきた時期が近くて、そういう若い連中とよく一緒にセッションとかして遊んでたんだよね。

 

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※写真中央がTak Tanaka

-それからもうずっとTakさんとは一緒に音楽してますよね。今ではNao Yoshiokaバンドでもお世話になって。でもNaoとは僕たちがマネジメントし始める前にもうTakさんと一緒にライブとかしてましたよね?(※このインタビューにはNao Yoshiokaも同席)

Nao Yoshioka: 私が日本に帰ってきてから初めて行ったのが下北沢のアポロっていうところでやってたセッションで、そこに中村亮さんとかTakさんとかもいらっしゃって。当時から「私はSOULで世界で活躍したい!」とか言ってて、いろんな人にバカにされたりもしたんですけどTakさん達は「いいね」って言ってくれたんです。「それだったらSWEET SOUL RECORDSに会った方がいいよ」って紹介してもらったりして。それからも何回か一緒にやらせてもらってるうちに山内さんも見に来てくださって、っていう。

Tak: そうだね。Kazさんとかもいたりしてああいうメンバーでやるのはなかなかなくて楽しかったね。

-他にもTokyo Soul Driveでも何度もご一緒しましたよね。

そうだよね。あれがきっかけで日本にいるミュージシャンもSongとかMirjamとか海外のアーティストと音を出す機会を持てて良かったと思うよ。

 

Tokyo Soul Driveの様子

 

ミュージックディレクターの一番大きな仕事はアーティストの”マナー”を探ること

-そしていよいよ本題という感じなんですがAaron Abernathyのミュージックディレクターを今回お願いさせてもらって、まず彼の音楽を聞いた時の第一印象はいかがでしたか?

最初カーステレオで結構爆音で聞いたんだけど、その時は意外とサラッとした印象だったんだよね。わざとやってるんだと思うんだけど近年のR&Bのアーティストに比べて曲も短めだし。それでも何曲か引っかかる曲があって改めてヘッドホンでしっかり聞いてみたら、まあかなりがっちりと作り込まれたサウンドで、キャッチコピーのD’AngeloとかPrinceとかとはまた良い意味で違った印象だったのね。楽器の選び方とかビートの感じとかはもっとHip Hop寄りだなーとか、声の感じも張る感じでもないし、かと言ってDweleみたいに囁く感じでもないし、Interludeがちょろっと入ってたりアルバムとしてのストーリー展開も面白いし、いい意味での裏切りがいっぱいあって。
ライブ映像もYoutubeにあるものは見て、かなり肉体的なライブをやっててやっぱりこうじゃなきゃね、って思わせてくれて、一緒にライブをするの楽しみだなーと思ってるよ。

 

Aaron Abernathy – Favorite Girl

 

-もう彼とは電話とかしていろいろ詰めたりしてます?

Aaronとはメールでやり取りしてるんだけど凄いジェントルな文章だよ。今はメンバーと「ここは抑えておこう」「ここは遊びをもたせておこう」とかを決めてる状態だね。

-TakさんがMDをされる時に意識してることはどんなことなんですか?

アーティストって自分のやりたいことがしっかりあるし、いろんなミュージシャンとやってきた人は効率的なやり方っていうのも持ってるから、なるべくその人のマナーに則ってやるようにしているね。それがスムーズかつパフォーマンスに集中できる状況を作ることになると思ってるから、俺のMDとしての仕事の大半は現場に行く前の仕込みだよ。ライブの動画を見たり、アーティストとやり取りしてその人がどういうマナーを持っているのかを探るのが実際に音を出すこと以上に大切なことだと思ってやってるかな。
自分がプレイヤーとして現場に行く時のことを考えてみても、アーティスト本人は全くリハには来ないけどMDが全部把握していてMCの文言まで説明してくれて、実際本番やってみると全くその通りに進行したりっていう現場もあったりするからね。

-それだけプロダクションがっちり組んでるってことですよね。そういうマナーみたいなのをこのMDから学んだみたいな人っているんですか?

Brian McKnightのChris Loftlinは優しいスパルタって感じでよく覚えてるね。でも一番影響受けてるのは俺がアメリカで行ってた教会のバンドのRichard Turner Jr.っていう鍵盤奏者。10あるうちの1くらいしか言わないでミュージシャン自身に考えさせるやり方をしているんだけど、それくらいがミュージシャンの成長にも繋がるし自分の個性も出てくるからね。しかもアーティストには常に気配りしていて何をやりたがっているかを把握しておくっていうのも、MDってこういうことなんだなっていうのを学びましたね。あと日本だったら坂本竜太さんは現場の人間全てを面倒見て統括できる凄く優秀なMDだからそれは凄いなって尊敬してます。

-ではMDのTakさんから今回の公演のメンバーをご紹介いただけますでしょうか!

Zak CroxallはNYから来ているベーシストで、オールドスクールでモータウン的なアプローチもできるのに現代ヒップホップにも詳しくてグルーヴの幅が本当に広い。しかも攻めるところではしっかり攻めることもできる。フィリップ・ウーのギグで一緒になったんだけど、見た目はピノ・パラディーノみたいで音楽的なコミュニケーションも温かいナイスガイだね。
ドラムのJay Stixxは好きな音楽が俺と近くて、特にこうしてって言わなくてもやってくれる感じがいいね。年に何回か一緒にやってるけど、ネオソウルマナーもよく知ってるし、ドラムのチューニングなんかもあそこらへんの欲しい音に寄せてくれる。Aaronはサウンドの幅が80s~現代までって広くて、それを少人数編成でやろうと思うとAaronとドラムが何より大事だからいいコンビネーションになるんじゃないかなと思ってますね。

 

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-最後なんですが、Takさんって結構クールに音楽と向き合っている印象があるんですけど、音楽をされていて一番燃える瞬間っていうのはどんな時ですか?

クールに見えるのは多分、俺がギターを弾く時には周りがどういう音を出してるかっていうのに合わせてギアを変えてるからかもね。インストだったらボコボコにしてやるくらいの勢いでやるけど、特にシンガーがいるバンドだと楽器の全力に拮抗できる人じゃないと全体の調和が乱れてしまうから抑制することが多いかな。
そんな中でもスイッチがバシッと入ってグッと前に出ちゃう瞬間っていうのはもちろんあるけど、それは信頼関係があるかどうかっていうのが大きいかもしれない。そういう意味ではNaoとやる時もそうだし、2年前くらいに来日したBoukou Grooveっていうニューオーリーンズのバンドで弾いた時はトリオだしリミッターを外しても大丈夫って思ったからグッといったね。ソウルバンドだと各パートが綺麗にハマって初めていいグルーヴが出せるわけで、そのためにはクレバーでいなきゃいけない場面と本能的に前に出る必要がある場面っていうのがあって、そのバランスは常に考えて、行けって時は弦ぶち切るくらいの勢いでいくようにしているね。

-それを今度はAaronと一緒にやっていくわけですよね。

そうだね。すごく楽しみだね。

 

LIVE INFORMATION


■タイトル:Aaron Abernathy Live in Tokyo
■日程:2017年4月27日(木)
■時間:OPEN 19:00 / START 20:00
■会場:代官山LOOP (〒150-0035 東京都渋谷区鉢山町13-12 B1)

http://www.live-loop.com/index.html

■席種:全自由
■チケット:5,000円+1Drink

▽ご予約はこちら▽
http://peatix.com/event/240065

■出演者:
Aaron Abernathy
Tak Tanaka(Gt.)
Zak Croxall(Ba.)
Jay Stixx(Dr.)

■お問い合わせ:ライフサウンド株式会社
電話番号:0364168690 [月~金 12:00-19:00 ]