ナイジェリアで生まれ現在はNYで活躍するシンガーソングライターOlu Bliss(オルー・ブリス)。世界中を旅して作り上げた新アルバム『Traveling Bliss』の日本盤を8月15日にリリースしたばかりの彼に、音楽への思いや本アルバムの制作過程について聞いてみた。

Olu Bliss Interview

ーあなたはナイジェリア出身で現在NYで活動しているそうですが、どんな環境で育って、いつ頃からアメリカに渡ったのですか?

僕はナイジェリアのラゴスという街で生まれ育ったんだ。父親はビジネスマンで母親は銀行のマネージャーをやっていた。家族は皆クリスチャンだったから自然とたくさんのクリスチャン・ミュージックを聴いて育ったんだ。その他にも、両親はBob MarleyやMichael Jacksonも聴いていたから、小さい頃からそういったアーティストにも触れていたよ。でもそれから10歳の頃にNYに渡ってからはより一層ヒップホップ、R&B、ソウル、ロックなどたくさんの音楽に触れることができたんだ。

 

ーナイジェリアといえばFela Kutiの一族が有名ですが、あなたの音楽にも影響を及ぼしていますか?

正直に言うと彼の音楽にはあまり触れる機会がなかったんだ。ただ彼が政治的な活動にも積極的でナイジェリア政府と対立してでもメッセージを伝え続けたことは知っている。政府が彼とその家族に多大な代償を払わせたこともね。それでも彼はナイジェリアだけでなく世界中に影響を与えたんだから偉大だよ。彼のように、他人が怖くて言えないようなことをアートを通して世界中に発信することってすごい重要だと思うんだ。とても勇気がいるけどね。言葉には、誰かの人生を変え、革命を起こし、世の中に変化をもたらす力があるんだ。

 

 

ーそれではあなたの音楽的なバックグラウンドについて教えてください。

影響を受けたアーティストはSam Cooke、D’Angelo、Maxwell、John Mayer、Coldplay、Local Nativesとかだね。『Traveling Bliss』の音楽にもその影響は表れていると思うよ。でも母親は僕にいつも「あなたは話すことよりも先に歌うことを覚えていたわ」って言うんだよ。たぶん小さい頃に意味不明な言葉をメロディにのせて叫んだり、かかっていた曲に合わせて歌ったりしていたんだろうね。大きくなってからも小学校で机を叩きまくって授業の邪魔をしたり、部屋にこもってFL Studioの海賊版でずーっとビートを作り続けたりしていたから、両親は多分相当困っていただろうね。でもそうやって自分の音楽を培ってきたんだ。

 

ー歌に関しては誰に影響を受けましたか?

たくさんいるけど、中でもD’Angeloは僕のお気に入りの一人さ。彼は自分の声を楽器の一つとしてとても巧みに利用していて、聴いていて楽しいんだ。あとMaxwellの感情のこもった声とハイ・トーンの出し方も参考にしてる。他にも素晴らしいヴォーカリストはたくさんいるよ。Amy Winehouseは怖いものしらずで自分の声を汚く聴かせることになんの躊躇もないし、Jill Scottは自分のヴォーカルをジャズ調に操っているし、Sam Cookeの声はとてもスムーズで聴いているうちに彼が世界で一番カッコよく思えていしまうほどさ。多くのアーティストからたくさんのことを学んでいるよ。

 

 

ーこれまで、またはこれからコラボーレーションする予定のあるアーティスト、さらに組んでみたいアーティストはいますか?

今まではAmineやMasego、omniboiなんかとはライブで共演したし、Lege KaleやKhary、CRL CRRLLとはコラボレーションしたね。これからコラボしてみたいアーティストもたくさんいるよ。Daniel CaesarやJorja Smith、Lianne La Havas、Emily King、D’Angelo、Maxwell、それからプロデューサーのMars Today、Abjo、Sango、 Kaytranadaとも何か一緒にやってみたい。このリストが尽きることはないね。

 

ーデビューはいつですか?

正式なデビューは今から7年前の2011年さ。そこで初めて僕の音楽を世界にリリースした。そこから次の曲を発表するのに5年かかったよ。

 

 

ー今回の『Travelling Bliss』は2枚目のアルバムとなりますが、1枚目のアルバムとの違いはどんな部分だと思いますか?

大きな違いは僕自身の人間的な成長にあると思う。もっと言うと、1stアルバムで表現した「愛」に対する解釈と今の僕のそれとは全く別物なんだ。僕は以前はもっとシニカルに愛を捉えていて、愛は重荷なんだって考えていた。それから2回も失恋して心に何回も傷を負った後で初めて「愛は自由に与えられるものだ」ってことに気付いたんだ。もちろん音楽のクオリティも大きく成長しているけどね。

 

ー楽曲はすべてご自身のオリジナルですか?

全部僕のオリジナルだよ。歌詞は全部僕が書いたけど、それを楽曲にするために才能あるミュージシャンとプロデューサー達に助けてもらったけどね。

 

ー『Travelling Bliss』にはオーストラリアからUNO Stereo、カナダからjamvvis、ウガンダからDJIN、そして日本からは3ToSなど世界中からプロデューサーが参加していますが、彼らとはどうやって繋がったのですか?

彼ら3人のプロデューサーとはインターネットで繋がったんだ。SoundCloudを通してお互いの作品が気になったのがきっかけさ。僕らはものすごくポジティブな関係で、UNO Stereoやjamvvis、DJIN、そして3ToSとノートパソコンを通して快適に繋がれるんだ。今では世界中の音楽を飛行機代なしで体感できるんだから本当にすごいよ。実は今回のアルバムに収録されている“747”のタイトルは飛行機のボーイング747から取ったんだけど、もうボーイングなしでも旅が出来る時代が来ているよね。

 

 

ーこのアルバムで演奏しているバンドのメンバーはどんな人達なのか、教えてください。

今回参加してくれたバンドメンバーは皆、僕が個人的に繋がっている人達だ。まず友達のMatt Cross(リズムギター)が、彼の親友であるAmos Roseを紹介してくれた。Amosは僕と一緒に曲のプロデュースを担当してくれたよ。それからAmosがピアニストのYesburgerを紹介してくれたんだ。ベーシストとしてEamon Rahyneも呼んだよ。彼は僕の前のバンドでも一緒にやっていたし、彼の持つエネルギーはとてつもなくパワフルだからね。

あとは当時の僕のガールフレンドが、パーカッショニストのThemba Siphoを連れてきてくれたりもしたね。彼は僕が好きなアーティストを全部知っていて、とても気が合ったよ。だから僕がこのプロジェクトを通して何をしたいかをすぐに把握してサポートしてくれた。ホーンのアレンジはPortmanteauっていう一流のファンク・バンドが担当してくれたよ。彼らとはロンドンでのライブで一緒に演奏したこともあるね。そんな風に、今回のメンバーは皆個人的に繋がっている人ばかりだったんだ。その繋がりが今回の制作のエネルギーを生み出したし、アルバムを作るときの根気強さにも大きく貢献していたんじゃないかな。

 

ーアルバムには生演奏を主体にした曲が多いのはこだわりですか?リミックスに関してはまた印象が違いますが。

僕は人間ができる一番のクリエイティブなことは楽器を演奏することだと思っているんだ。だから生演奏が好きで、今回のアルバムもなるべく打ち込みではない生の音を使うようにした。大学時代はずっとロックやインディーズのバンドで演奏していたから生の演奏がしっくり来るし、楽器そのものの持っている音がそのまま表現できるからね。ただ今回新しく収録された6曲のリミックスに関しては生演奏にはこだわってないんだ。リミキサーのそれぞれが持つユニークなスタイルが僕の音の可能性を引き出してくれると思ったから、全てリミキサー達に任せたんだ。

 

ー今回の『Travelling Bliss』というアルバム・タイトルに込めた意味を教えてください。

『Traveling Bliss』は僕が色々な国を旅しながら書いてきた曲のコレクションなんだ。今回は僕が旅の間で抱いた感情にフォーカスして曲を作ったんだよ。だからそこで何を体験したのか、その後どうなったかについてまでは触れられていない。僕の音楽の目的は今ここで進行している物語を曲にして語ることだから、今回描いた旅の中で得たものについては次回以降のアルバムで曲にするつもりさ。だから今回の『Traveling Bliss』はOlu Blissの一部分でしかないけど、今後僕が音楽を通して自分自身を表現していくための土台のようなものだね。

 

ー最後にリスナーに伝えたいことがあれば一言どうぞ。

仕事に行く途中、旅行中の飛行機、友達に会いに行く途中の電車の中とかで是非このアルバムを聴いてほしい。みんなが僕の音楽で少しでも癒されたなら、こんなに嬉しいことはないよ。