Iman Europe(イマン・ヨーロップ)やMars Today(マーズ・トゥデイ)などSWEET SOUL RECORDSからもリリース作品が続くロサンゼルス所縁のアーティストたち。ハリウッドに代表されるように世界で随一のエンターテイメント都市でもあるロサンゼルスは、音楽においても時代をリードし続けてきた都市だ。現在でもメジャーシーンのみならずBrainfeederやSoulectionなどのレーベル、Low End Theoryなど世界的人気パーティーなどアンダーグラウンドシーンから登場した先進的音楽も常に発信し続ける音楽都市ロサンゼルスの音楽シーンの歴史と現在のシーンを紐解いてみよう。
LA音楽シーンの歴史
LA音楽シーンの興隆の歴史はハリウッドの映画産業に紐づいて始まる。1940年代にはハリウッドの映画音楽制作のために多くのジャズミュージシャンが集い、セッションがおこなわれていたという。アメリカにおけるジャズの本場と言えばニューヨークという印象が強いが、実のところ同時期には既に西海岸でもジャズシーンは活発に動いていた。
その後1960年代に入るとカリフォルニアの温暖で開放的な気候を体現するかのように若者たちの間ではサーフ・ロックが流行の兆しを見せ始め、The Beach Boysの登場により一気に開花。現在ではトータルセールス1億2000万枚を記録するモンスターバンドThe Eaglesが1972年に登場したことでアメリカのみに止まることなく全世界をリードする存在へとなっていった。
その後もGuns N’ Rosesを代表とするLAメタルや、Black Flagを代表とするハードコアパンク、2015年に公開された映画「Straight Outa Compton」で描かれたN.W.A.やSnoop DoggなどのHip-Hop、現在でもトップバンドとして活躍するRed Hot Chili Peppersなどを筆頭としたミクスチャーなど多種多様な音楽を現代に至るまでリードしてきた。
そして2010年代。今でもロサンゼルスからは常に新しい音楽と才能溢れるアーティスト、クリエイター集団が毎年のように生み出されている。
現代に繋がるLA音楽シーンの土壌
現代においてもBruno MarsやJustin Bieber、Adam Levine等世界的なPOPアーティスト達も出身地であったりLAに自宅や制作拠点を置くなど所縁のある場所であることは広く知られているだろうが、近年LAの音楽シーンとしてディープな人気を集めているのがLA BEATS、LAビートシーンなどと呼ばれるものだ。このシーンの根っこであり、未だにトップランナーでもある名門レーベルStones Throwからまず見てみよう。
“超パーソナルなレーベル” Stones Throw
ビートミュージックと聞いて真っ先に挙がるアーティストの一人といえばJ Dillaだろう。D’AngeloやErykah Badu、Questlove、Q-Tipなど90年代から00年代前半にかけていわゆるネオソウルを発展させたThe Soulquariansの一員として世界的なヒット作を多数生み出してきた彼による、レイドバックさせた有機的なビートから影響を受けたというアーティストはミレニアル世代には数え切れないほど。
そんなJ Dillaをはじめ、Gabriel Garzón-Montano(ガブリエル・ガルソン-モンターノ)やTuxedo、Mndsgn、NxWorriesなど多ジャンルに渡ってシーンをリードするアーティストたちの作品をリリースしてきたのが名門「Stones Throw」である。
常にブレない姿勢で創設以来常に「イケてる」存在であり続ける秘訣をこのレーベルの創立者であるPeanut Butter Wolfはこう語っている。
Stones Throwは私にとって、とてもパーソナルレーベルなんだ。自分が個人的に好きなものしかリリースしないし、それ以外の音楽は他のレーベルのためにとっといてあげるんだ。レーベルのエグゼクティブプロデューサーとして、「人々」が好きになる音楽ではなく、私が個人的に好きなものをリリースするんだ。今までこの方法が上手くいってきたし、もしこれが上手くいかなくなったら、それはStones Throwの終わりを意味する。
(引用元:Playatuner「Stones Throwがレーベルとして何故最高にイケてるのか?創業者Peanut Butter Wolfの理念から見るその理由」)
あくまでも自分が好きな音楽のみしかリリースをしない。一人の音楽ラバーとしての矜持、そして自身の音楽センスへの自信がなせるその理念で「Stones Throw」というラベルは世界中の音楽ファンに大きな意味と信頼を与えている。
またStones Throwは2016年にはスタジオも持つようになり、ここでは所属アーティストたちが活発なコラボレーションをしているようだ。そこにもPeanut Butter Wolfのいう「パーソナル」さが現れているように思う。世界中様々な場所で活躍するアーティストたちが戻ってこれる家、それがStones Throwであり、その環境が与える安心感が挑戦的な音楽を生み出す原動力の一端を担っているのだろう。
そして、それだけの名門だけにアーティストにとっても憧れの存在となっているStones Throw。ここでインターンを経験したというアーティストが現在世界のシーンを牽引するスーパースターとなっている。それがLAが生んだ鬼才・Flying Lotusだ。
鬼才・Flying LotusとBrainfeeder
現代の音楽シーンのキーパーソンである鬼才、Flying Lotus。そのプロフィールを引用するとこうだ。
フライング・ロータス(Flying Lotus, 1983年10月7日 – )は、カリフォルニア州生まれの音楽プロデューサー、ディスクジョッキー。おもにヒップホップ音楽を手がけるが、ジャズや電子音楽、ブラジル音楽の影響をつよく受けており、強い重低音と特異なリズムが特徴的である。アリス・コルトレーンを大叔母に、ジョン・コルトレーンを大叔父にもつ。2006年に最初のアルバム『1983』をリリースした。
(引用元:Wikipedia「フライング・ロータス」)
その”血筋”からいってもサラブレッドと言える彼だが、ファーストアルバム『1983』のリリース以降彼がもたらしたインパクトはその血筋など関係なく彼が当代随一の才能の持ち主であることをわからせるには十分だと言えるだろう。
「コズミック」「カオス」などといった言葉でも形容され、ヒップホップ、ジャズ、エレクトロ、そのどれとも言えない自由で唯一無二な感性から放たれる音楽はシーンに一石を投じ続け、常に時代の旗手として牽引。その才能は自身の音楽表現だけに止まることなく、映画監督として『Kuso』の制作、更には今や最も注目を集めているともいえるレーベル/クルーBrainfeederの主宰など幅広く活躍をしていく。
※過激な内容も含まれるので閲覧にはご注意ください
BrainfeederといえばErykah Baduバンドのベーシストを務め、自身の音楽作品も高く評価されるベーシストThundercat、サックスプレイヤーとして今や世界中の音楽フェスなどにも出演するKamashi Washinton、更にはファンクレジェンドGeorge Clintonなど、ジャズ〜ヒップホップまでいずれも独自のセンスと先進的な音楽性でシーンを牽引してきたアーティストが多数所属。ここ日本においても2018年のSONIC MANIAではBrainfeederステージができるなど人気を集めている。
そんなFlying Lotusも称賛を送りLAの音楽シーンを語る上でもう一人欠かせない“ゴッドファーザー”とも呼ばれる人物がいる。それがDaddy Kevだ。
今最も“アツい”LA音楽シーン
Daddy Kevと世界的パーティー「Low End Theory」
Daddy KevといえばKendrick Lamarを迎え2016年にグラミー賞にノミネートされたFlying Lotusの“Never Catch Me”のマスタリングを担当したことからもわかるようにプロデューサー、エンジニアとして絶大なる信頼を寄せられ、Brainfeederとも共同関係にあるレーベル「Alpha Pup Records」を主宰し新たな音楽の発掘と拡散にも大きく力を入れている。そんな彼が創立し、LAの音楽シーンの土壌を形作るにおいて重要な役割を果たすパーティーが「Low End Theory」だ。
Low End Theoryが初めて開催されたのは2006年のこと。今でこそ超人気パーティーとなったのだが、当初は人もまばらで現地のコアな音楽好きのみが集う玄人的イベントだったそう。その創立のきっかけについてDaddy KevはQeticのインタビューにてこう語っている。
もともとのコンセプトはビート・メイカーたちの音楽に焦点を当てることだった。デイデラスやフライング・ロータスなどのプロデューサーは早くからライヴをやっていたけど、彼らの本領を発揮できる空間がなかったんだよね。そういうビート・メイカーやプロデューサーたちは単純に「ヒップホップ」の枠に入れられることも多くて、とても完璧な組み合わせ方とは言えなかった…。<ロウ・エンド・セオリー>が生まれたことで、ビート・メイカー/プロデューサーに焦点を当て、ベース・ミュージックを意識したサウンド・システムを提供できるイベントが実現したんだ。
(引用元:Qetic「【インタビュー】ロウ・エンド・セオリーの創始者=ダディ・ケヴがQetic初登場! イベント立ち上げの経緯や、脅威のサウンド・システムの秘密がいま解き明かされる――」)
そうしてビートメイカーのために作られた極めてローカルなイベントだった「Low End Theory」は、次第にLAの音楽シーンで土着的に活躍していたアーティストたちの間で話題を集め世界的に広がりを見せるようになっていく。今ではErykah BaduやThom Yorkeといった世界的アーティストも出演し、フロアでオーディエンスと共にその音楽と空間をピュアに楽しむ場として認知され、LAを飛び出して舞台を世界各地に移して開催するようになった。
※先日、Low End Theoryは2018年8月で終了することがアナウンスされた
このパーティーの盛り上がりに比例するように、華やかなメジャーアーティストたちだけではなく、LAを拠点に活躍する先進的な音楽を扱うアーティスト/ビートメイカーの存在が脚光を浴びるようになり、LAのエレクトロ×ヒップホップ×ビートによる音楽はLA BEATSなどと呼ばれるようになっていった。
※当の本人達はLA BEATSというシーンもなければビートミュージックに限定しているわけでもない、ただ新しい音楽を生み出し続けているだけだという意識も強いようで、そういったアーティスト視点での「Not a Beat、Not a Scene」というドキュメンタリーも作られている。これについてはPlayatunerにて詳しい解説記事もあるのでぜひ参照いただきたい。
そうして現場レベルでの広がりに加えて、MySpaceやSoundCloudなどの登場によってインターネット上で世界中のアーティストが繋がっていく土壌は格段に強化されていく。その土壌をベースにインターネットと現場の両輪で活躍するレーベル/クリエイター集団、Soulectionについても現在のLA発のシーンを語る上では欠かすことは出来ない。
多様なロールを担う現代型DIYクルー・Soulection
2011年にJoe Kayたちにより設立されたSoulection。彼らの特徴は「レーベル」であり、「ネットラジオ」で多数のリスナーを抱え、様々なアーティストが刺激し合いながら作品を量産する「クリエイター集団」でもあるその多様なロールにある。
俺が大学に在籍しているときにラジオショーのプログラムをつくっていて、そこで色んな人との出会いがあり、彼らに家族のような気持ちを抱くようになったんだ。そして、その延長で自分たちでレーベルをつくって、そこでつくられる音楽をラジオで流そうということになったんだよ。すべてDIYでやろうってね。
(引用元:GIRL HOUYHNHNM「Meeting with SOULECTION.」)
創設者のJoe Kayはこう語るように、Soulectionのキーワードは「DIY」とレーベルコンセプトの「The Sound of Tomorrow」に象徴される未来的サウンドだろう。この二つのキーワードを共に満たす場として彼らが重きを置いているのがSoundCloudだ。
彼らの楽曲はそのほとんどがSoundCloudでフリーで聴けるうえ、新たなアーティストとの出会いもSoundCloud経由でコンタクトをとることから始まることが多いそう。その理由は、SoundCloudというプラットフォームならではの気軽さと実験的なサウンドにあるという。先のインタビューにおいてこのように語っている。
サウンドクラウドは新しいアイディアや可能性に満ちたサービスだと思っている。中には、スタジオではなく自宅で音楽をつくっている人たちもいるんだ。iPhoneを使ってメロディーを録音をして、そこにビートを重ねたりとかしていて、すごくユニークなんだよ。アンダーグラウンドなフィールドにいるDIY精神あふれるアーティストたちを探して、彼らの個性を育てるようにプロデュースをしたいと思っているんだ。
(引用元:GIRL HOUYHNHNM「Meeting with SOULECTION.」)
このような視点からピックアップされるアーティストたちの中には様々な人種や国籍のアーティストが入り混じっており、日本人アーティストstarRoもSoulectionの一員。starRoと言えば2017年に発表された第59回グラミー賞の「最優秀リミックス・レコーディング部門」にノミネートされ一躍注目を集めたことも記憶に新しい。彼のグラミーノミネートによってSoulectionの名を認知した日本の音楽ファンもいるだろう。
LA音楽シーンから学ぶ明るい音楽の未来
Stones Throw、Alpha Pup Records、Brainfeeder、そしてSoulection。LAを基盤として登場し、世界中から注目を集め名門と呼ばれるレーベルとそこに集まるアーティストたちに共通するのは、「新しく」「面白い」ものを常に生み出したいという純粋な音楽への探求心なのかもしれない。
その精神性がある限り、大都市でありなおかつその住環境の良さ故に様々な人が集い刺激が常に途絶えないこの街から、次なる新たな音楽の扉を開けるアーティストが登場し続けるのは違いないだろう。
日本においても近年ようやくSpotifyやApple Musicなどのサブスクリプションサービスが浸透し始め、starRoのように現代的な音楽でグラミー賞ノミネートを果たすアーティスト、AmPmなどネットメディアを活用し世界でファンを増やすアーティストなども増加し、新時代の幕開けを本格的に感じさせる事象が発現している。センセーショナルな暗いニュースがフィーチャーされがちな時流の中でも、新しく面白い音楽を探求し続けるアーティストが集い、ファミリーとしてサポートしあうLA音楽シーンのような生態系から明るい音楽の未来の一端を垣間見ながら前を向いて歩みを進めていくことが必要だろう。
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