“肌で感じるライヴ”の醍醐味が詰まった艶やかでアグレッシヴなステージ

10月28日(木)渋谷WWW Xで行われた「Nao Yoshioka Japan Tour 2021 -Rising After the Fall-」の東京公演。中盤の長尺ファンク・ジャムを終えた後、「みんなこれでしょ、見たかったのは! 肌で感じたかったのは!」と言い放ったそのひとことに、今回のツアーに対する思いや意気込みが表れているような気がした。
昨年12月にブルーノート東京で有観客のライヴ(及び配信)を行ったものの、この1年半、多くのミュージシャンたちと同じようにNao Yoshiokaもライヴ活動ができない日々が続いていた。2018年にアメリカ(NY)に活動拠点を移し、2019年に発表したアルバム『Undeniable』からのシングル「Loyalty」を全米リリースして、まさにこれから…というタイミングでのパンデミック。そこで苦肉の策として始めたのが、ライヴ映像などの配信。今年4月に「Fearless Strength Faith Joy」と題して行ったオンライン・ライヴ(一部ファンを会場に招待)も含め、音響やカメラワークへのこだわりを感じさせた動画配信は、ニューノーマルが謳われる時代のエンタテインメントのあり方を示した点で高く評価できるものだった。画面を通して“繋がっている”という感覚はライヴ・ハウスで観るショウとはまた違った味わいがあり、それはそれで悪くない。とはいえ、一度でもNao Yoshiokaのステージをライヴ会場で体験しているリスナーにとっては配信では100%満足がいかないし、本人も直接ファンの歓声を浴びながら歌うほうがいいに決まっている。
かくして、世情と睨めっこしながら、福岡、札幌、東京、そしてこの後、11月16日(火)に行われる大阪公演まで、緊急事態宣言の解除に合わせたスケジュールを組み、無事開催されたツアー。もちろん、マスク着用で発声禁止、ソーシャルディスタンスを保つなどの制限はあるが、結果的にはファンも本人も抱いていたモヤモヤを一気に晴らすライヴとなった。

パンデミックが繋ぎ合わせたバンドが紡ぐ高次元なファンク・グルーヴ

Nao Yoshioka

もう音楽活動ができないんじゃないか…一時はそんな不安も頭をよぎったという。だが、悪いことばかりではなかった。NYから一旦東京に戻った彼女は、「アメリカでも出来なかったことが日本で出来ている」と言うほど相性の良いバンドと国内で出会う。それが、昨年12月のブルーノート東京公演の際に顔を合わせた、宮川純(キーボード/オルガン)、ザック・クロクサル(ベース)、井上銘(ギター)、菅野知明(ドラム)の4名。パンデミックがもたらした出会い。怪我の功名とでも言うべきか、まさに今回のツアー・タイトル〈Rising After The Fall〉そのものである。

Jun Miyakawa

May Inoue

Zack Croxall

Tomoaki Kanno

これまで国内外のツアーを支えてきたミュージシャンたちもNao Yoshiokaの音楽に欠かせない才人ばかりだ。が、宮川純がバンマスを務める今回のメンバーは過去最高レベルの結束力で、Nao自身もバンドの一員と言っていいほど一体感がある。ジャズの素養を感じさせるメンバーたちが創出する高次元のサウンド。菅野知明による図太いドラムがボトムを支えるダーティでルーズなファンク・グルーヴは、確かに日本ではそうそうお目にかかれない。それは、どことなくディアンジェロ&ザ・ヴァンガードを連想させた。ベースを弾く長身のザックがピノ・パラディーノに見えたというのは半分冗談だが、冗長になるどころかいつまでも聴いていたい宮川純の鍵盤ソロや井上銘のギター・ソロが炸裂したインプロヴィゼーション的なジャムの終盤で、Naoがディアンジェロ「Chicken Grease」のフレーズを口ずさんだこともそんな思いを強くさせた。とくれば、黒田卓也のトランペットが加わる大阪公演では、ロイ・ハーグローヴを擁したディアンジェロのかつてのツアー・バンド、ソウルトロニクス風の演奏が聴けるのかもしれない。とはいえ、彼らはディアンジェロを意識してネオ・ソウル的な何かを真似ることに腐心しているわけではなく、ディアンジェロが影響を受けたようなファンクのグルーヴを掴んで、もっと根源的な部分を突き詰めているように感じた。

Nao Yoshioka Japan Tour 2021 -Rising After the Fall- 東京公演そもそもNao Yoshiokaの作品には、ワシントンDCのローカル音楽であるゴーゴーを取り入れたアップ・ナンバーなど、ファンクをベースにした曲がそれなりにある。『Undeniable』では“All In Me”でアフロビート的なサウンドにも挑戦した。今回のツアーでは、そんなNaoのファンク・サイドに本人もバンドも真正面から向き合った印象で、ハイレヴェルな演奏に拮抗するような彼女のヴォーカルは、これまでに感じたことがないくらいアグレッシヴにして艶やか。Naoのパフォーマンスはライヴを重ねるごとにスケールアップしていて、最小限に絞ったMCでの言葉も自信に満ち溢れ、観客の煽り方もUSのヴェテランR&Bシンガーのような貫禄を見せていた。普段ライヴの MCではほとんど使わない関西弁(Naoは大阪出身)が飛び出したのも遠慮なく“素”の自分を表現した証拠で、久々に有観客でライヴが出来たことの喜びが伝わってきた。また、マイクを通さずに生声で歌う場面があったのも珍しく、その姿からは、配信では伝えられない空気をライヴ会場で伝えたいという強い思いが滲み出ていた。

 

現代のソウルを歌うNao Yoshiokaが喪失を通じて得た自由とは

Nao Yoshioka Japan Tour 2021 -Rising After the Fall- 東京公演

セットリストの公開は現時点では控えるが、ワールドワイドでの活動を視野に入れて制作した『The Truth』(2018年)と『Undeniable』(2019年)および最新EP『Philly Soul Sessions』(2021年)からの曲を中心に歌ったショウは、そのままアメリカでパフォーマンスしても違和感のない現行 R&B然としたもの。が、そう感じる一方で、4人の精鋭たちと繰り広げるハイクオリティなパフォーマンスを目にしながら、“R&B“だとか“NYを拠点に活動“といったことは現在のNao Yoshiokaにとってそれほど重要ではないのでは?とも思い始めた。すると、彼女の口から「(パンデミック以降)拠点がどことか、もうわからなくなった。拠点って何?」というセリフが飛び出した。やはりそうだったのか。今の状況を受け入れたことによって気負いやプレッシャーから解放され、これまでになく自由。実に晴れやかな表情をしている。ツアー・タイトルの〈Rising After The Fall〉は、かつてメイズのフランキー・ビヴァリーがアルバムに記した〈Gaining Through Losing〉という名文句にも置き換えられる。つまり、喪失を通じて得るもの。そんなことをあらゆる面から感じたライヴだった。

最後に新曲を披露したことだけはお伝えしておこう。この1年半くらいの思いを歌った“Tokyo 2020”というメロディアスなバラード。これがまた彼女のクラシックになりそうな快作なのだ。

Written by 林 剛
Photo by Tsuneo Koga

[Tour Information]
Nao Yoshioka Japan Tour 2021 -Rising After the Fall-

[Members]
Nao Yoshioka (Vo)
Jun Miyakawa (Key)
May Inoue (Gt)
Zak Croxall (Ba)
Tomo Kanno (Dr)
Takuya Kuroda(Special Guest)

[Web】
https://www.naoyoshioka.com/ratf2021

大阪公演(ツアー最終公演)
日程:2021年11月16日(火)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:梅田Banana Hall(〒530-0027 大阪府大阪市北区堂山町1-21 モンテビルB1 ※阪急東通り商店街最奥)
https://www.banana-hall.com/

問い合わせ:06-6341-3525(平日11:00~19:00)
http://www.yumebanchi.jp

[Ticket Information]
前売券:全自由 4,500円 ※税込 / ドリンク代別
当日券:全自由 5,000円 ※税込 / ドリンク代別
http://lf.naoyoshioka.com/2021RisingAF